ふ-この独り善がり日誌Ⅱ 「お餅のこと」
私はお餅が好きだ。
パーキンソン病を患う以前には、お餅を手作りしてよく食べた。
私がお餅を好きな理由は二つ。
ご飯のように三食食べても飽きない味ということと、保存が利くということだ。
美味しいお餅を食べるなら労苦を惜しまない。
例えば、材料の餅米はいろいろスーパーを巡って納得するまで探し歩いた。
美味しい餅米に出会うと電気餅つき器で餅つきをしたくなる。
たくさん搗いて、後は冷凍庫で保存する。お昼ご飯にお雑煮として、おやつに
お汁粉にして、いつでも食べられることに感謝して舌鼓をうつ。
一度にたくさん作る方法として、通販で丸餅製造機という商品をみつけた。
ヤケドするほど熱い搗き立ての餅を手の大きさに千切り丸い形になって出てくるのである。
私が子供の頃、餅つきは家族全員の行事だった。杵と臼で搗いた丸餅が
母と祖母の手から次々と繰り出されてゆく。
二人の手から離れたお餅をいちはやく私は口に運ぶ。
お餅が本当に美味しいと感じるのはこの一瞬といっていい。
これを味わいたくてお餅が好きになったのだが同時に、家族全員のお餅作りの懐かしい風景が記憶の底からよみがえってくる。
私がお餅を口にしたのは三年以上前になる。長い入院生活や現在の老人ホームの生活では、絶対に食卓にのることはない。
でもどうしようもなく食べたくなる時がある。お正月だ。おせちは出ても雑煮はでない。
意を決して○○の切り餅1キログラムを買って来た。だが食べる寸前、ホーム長にみつかってしまった。
ホーム長はまな板の上にお餅をのせて定規で測りながら「これぐらいはないと・・・」私の耳は呆気にとられて完全に閉じてしまった。
何を言われたか覚えていない。
老人ホームでは、お餅が悪魔の食べ物のように扱われていることに、抵抗感を感じていた。
しかし、お餅を喉に詰まらせて亡くなった高齢者は年間数百人に上ると言われ決して低くない値だといえる。
また、自分の足下に目を落としてみると例えば食事風景が参考になるのではないか。
高齢者の食事風景は飲込みに問題を抱えている人の割合が多いため、あちらこちらで咳き込む声、
職員が背中をさすりながら励ます声など賑やかだ。
特定の人だけでなく、高齢者は誰でも窒息を起こしやすいと、肝に銘じなければならない。
買って来たお餅はそのままでいる。どうしようか考え中である。
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