ふーこの独り善がり日誌Ⅱ
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十月のある日、食堂にハロウィンの飾り付けをした。飾り付けの発案をしたのは私達入居者だった。オープンして日の浅い私の居る施設は真新しく清潔感はあるが、どこか殺風景に感じられた。高齢者の施設というと、寂しい、暗い、活気がないというような先入観で見られがちである。皆が集まる食堂を明るく居心地がいい場所にして、暗いイメージを払拭したかった。私は身体が比較的動く、協力を申し出た人とコミュニケーションをとりながらした。末期がんの人もいる。いざ作業に移るとなると、少人数で完成させるには自信がなかった。身体を使う作業は私達には負担になる。慣れた手つきの職員の手を借りると、あっという間に終わった。どんなに些細なことでも職員の理解と協力は必要だと思った。簡素な食堂が明るく華やかになった。歓声が上がる。施設の外に出て食堂をみると窓の中からハロウィンの飾りがキラキラ輝いて見えた。
一言で老人ホームといっても様々で、私の居る施設は住宅型有料老人ホームにあたる。特徴的なのは、医療依存度が高い、主に末期がん、パーキンソン病などの神経難病の患者を受け入れ24時間体制で医療、介護のサービスをしている。看取りにも対応している。急に姿を見かけなくなった人を何人も経験した。この施設に来て私にとって死は身近になった。死とどう向き合うのか考えるようになった。ハロウィンの飾り付けを手伝ってくれた末期がんのAさんはシャインマスカットを食べながら「来年は食べられないから」と言う。
施設に入れば生活に制限がある。だからといってやりたいことや趣味を諦めてはいけないと思う。ハロウィンの飾り付けをして、ささやかな達成感、やりがいを感じた私は「今度はクリスマスだね」とAさんの言葉に背中を押されて、クリスマスの飾りをイメージしている。
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