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ふ-この独り善がり日誌Ⅱ 「Aさんのこと」

公開日:2024年02月05日 最終更新日:2024年02月08日

 末期がんのAさん(前号参照)はクリスマスを迎えることなくお亡くなりになった。あと少しでクリスマスという時に容態が急変した。この施設の中で誰よりもクリスマスを心待ちにしていたAさんの心情を省みると、Aさんは死とどのように向き合っていたのか?短い期間のお付き合いの中から、私は会話や垣間見た様子から理解を深めたいと思った。

 Aさんは百均でかなりの数のクラッカーを買い込んでいた。また、クリスマスの飾り付けには協力的で色々なアイデアも出して頂いた。普段の会話の中でユーモアを交えながら「シャインマスカット、今食べておかないと次の年は無いから」という。返事に困っている私はAさんの笑みの表情にショックを覚えた。Aさんにとって死はシャインマスカットと同程度の価値なのか?

 また、つぶやくように「○○君にお姫様抱っこしてもらいたい」と言う。若いスタッフが多い職場では、彼らの活気ある仕事ぶりに羨望の眼差しで見ている入居者がいるのも事実。この突拍子もない発言に私は苦笑いするしかなかった。Aさんの死を受け入れがたい私は、Aさんのためならと亡くなる直前に○○君にお願いに上がろうかと真剣に思ったが、結局言い出せなかった。Aさんは純粋な気持ちで心の内を吐露されたのだと思う。

 それは、亡くなる直前、まだ意識のある時Aさんは私に食堂に在るたくさんの羊毛フェルトマスコットの中の一つ、一番大きくて男性的なシロクマのマスコットを指名して持ってきて欲しいと私に頼んだ。Aさんはシロクマを抱きかかえると愛おしそうに見つめている。死の床に在ってシロクマはAさんの番人のように枕元にいた。Aさんとシロクマは共に死出の旅へ立った。

 Aさんの一連の会話や様子から 推し量れることは、Aさんのクリスマスは生きている証となる目標になっていたのではないかと思う。男性的なシロクマはAさんの息子さんとの関連性ではないかと思った。

 クリスマスの飾りとして作り始めた羊毛フェルトのマスコットが思いもかけない用途で次の人の手に渡る。Aさんの事例から、自分にできる些細な社会とのつながりとしてパーキンソン病と共に身体が続く限り、これからも作り続けていきたいと思った。                                 

                                  ふ-この日誌ⅡAさんのこと写真シロクマ       

 

 

 

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